Walt Disney Imagineering(以下、WDI)の公式YouTubeにて、ウォルト・ディズニー・ワールドのディズニー・ハリウッド・スタジオの新アトラクション『Rock ‘n’ Roller Coaster Starring The Muppets』に登場するスクーターのアニマトロニクスに関する解説動画が公開されました。従来のアニマトロニクスと大きく異なる点と、モーションキャプチャー技術がマペットの動きの再現にどのように使用されたかが紹介されています。この記事ではマペットの仕組みと、今回のマペット専用のアニマトロニクスがどう開発されたかを、WDIの動画などを参考に解説していきます。
従来のアニマトロニクスとマペット
一般的なディズニーのアニマトロニクスは、キャラクターの内部にフレームがあり、モーターや油圧、空気圧などを用いて関節を動かす設計が主流です。これまでのマペットのアニマトロニクス、例えば『Muppet*Vision 3D(マペット*ビジョン3D)』に登場していたスタトラーとウォルドーフ、ビーン・バニーなども同様の構造でした。
一方で人間がマペットを操演する場合、マペットの種類にもよりますが、片手をキャラクターの胴体から頭部に挿入し、手首の返し・腕のひねり・指先の細かな動きによって口の開閉や表情を表現。もう片方の手でロッドを使ってマペットの腕を動かすことがほとんどです。
従来のアニマトロニクスでは、このように人間が操演するときに自然と生まれる「微細な揺らぎ」やマペット特有の生き生きとした動きを物理的に再現することは極めて困難でした。しかし今回のスクーターのアニマトロニクスは「マペットパフォーマーが操演したマペット」を再現することに重点が置かれた、マペット専用の仕組みになっています。
特製のモーションキャプチャースーツを使った実演データの取得
今回のプロジェクトでは、機械の動作を「いかに人間が操るマペットの挙動に近づけるか」追求するため、モーションキャプチャーが導入されています。WDIのチームはマペットの物理挙動を完全にデータ化するため、スクーターのサイズに合わせた特製の小型モーションキャプチャースーツを制作し、スクーターを長年担当しているマペットパフォーマーであるデヴィッド・ラドマンの実演データを収録しました。
動画では以下の部位にキャプチャー用マーカーが設置されていることが確認できます。
- 頭部: 頭頂部と下顎。頭部の動き・位置と口の開閉を連動させるための配置。
- 身体・腕: 首の周り、肩、肘。アトラクションでは隠れて見えない腰〜足にも設置されています。
- 胴体左側: 板状の剛体。スーツの布地と違いヨレないためマーカー同士の距離が変わらず、体の向きや傾きを正確に追跡できます。
- ロッド: 片手の動きをトレースするためロッドの中間に放射状の棒マーカーを配置し、ロッド自体のひねり、位置、移動軌道などを測定。
3Dプリント技術を活用した開発と動きの再現
ロボットはアトラクションで終日動かすため、動きを再現するための機構だけでなく耐久性やメンテナンス性が求められます。開発には3Dプリント技術が多用され、パーツの修正、立体出力、取り付け、テストという開発サイクルを非常に早く効率的に回すことができたそうです。
物理的な再現の難しさ
公式から具体的な制御方法が明言されているわけではありませんが、滑らかな挙動にも独自の技術が応用されていると思われます。例えばDisney Researchが2019年に発表した技術論文『Vibration-Minimizing Motion Retargeting for Robotic Characters(ロボットキャラクターのための振動最小化モーションリターゲティング)』は、元データの動きをロボットの関節や各パーツの物理限界、重量を考慮しながら「振動を最小化して再現する」というアルゴリズムに関する研究です。
CGアニメーションとは違い現実の物理法則が働くロボットでは、細かい動きや急な動きをそのまま反映させても、重量の反動でガタガタと不自然な振動が起きてしまいます。モーションキャプチャーの動きを滑らかに再現した今回の例では、この研究成果も反映されているのではないでしょうか。
最終的に、実際の操演データとアニマトロニクスの物理的な動きの差は、ほとんどの箇所でミリ単位の精度にまで収められたとしています。
CNETのインタビューでは、「頭(と胴体)」および「ロッド」を2本のロボットアームで操作してマペットの動きを再現していること、そしてこれがディズニーのアニマトロニクスにモーションキャプチャーが使われた初の事例であることが語られています。
アームそのものはカバーに覆われていますが、どのような動きになっているかは確認できます。
ジム・ヘンソン時代のデジタルマペット
マペットの動きをコンピューター上で再現、またはデジタルデータとして出力する試みは、ジム・ヘンソンの存命時(1980年代後半)から既に行われていました。『Muppet*Vision 3D』にも登場していたウォルドは、センサー付きのグローブ型デバイスとアームで手と腕の動きをデータ化し、CGアニメーションで再現したものです。「人間が演じたマペットをデジタル化する」アプローチとしては今回のアニマトロニクスの祖先と言えます。
なお、ウォルドは『Rock ‘n’ Roller Coaster Starring The Muppets』にイースターエッグとしても登場しています。
他のキャラクターへの応用と課題
基本的なマペットの動きは今回の技術の応用で再現することができていくかもしれません。ただ、スクーターは頭部が比較的硬い素材で作られており、顔の角度や口の開閉で表情が作られています。一方でカーミットなどは頭部が柔らかい素材で作られており、パフォーマーの手のすぼめ方や指先の力加減によって顔そのものの形状を微妙に変化させて表情を表現しています。その柔らかい素材ならではの歪みをアニマトロニクスで再現できるかが、今後の大きな技術的課題となるはずです。
今後のショーやアトラクションにおける運用の可能性
今回登場したスクーターのアニマトロニクスは、ディズニーパークにおけるマペットの在り方を根底から変える可能性を秘めています。もちろんシビアな目線では、動画を見る限りマペットパフォーマーの動きを100%完全に再現できているとは言い切れなさそうです。フレーム補間をかけたように感じるところがあり、デジタルデータへと変換・再現するための過程で、どうしても細かなノイズが削ぎ落とされてしまうのかもしれません。しかし今回の試みには、その削ぎ落とされたものを遥かに上回る価値があります。
これまでマペットたちの生き生きとした動きの面白さは、ほぼ映像でしか味わえないものでした。マペットパフォーマーによるマペットキャラクターを実際に見る機会もかなり限られています。それが今、極めて精巧に3次元で再現され、パークを訪れるたくさんの人々がいつでも見られるようになりました。この意義はかなり大きいものです。
ジム・ヘンソンが夢見た「人間が演じたマペットのデジタル化」は、40年近い時を経てかなりの高精度で実現されました。私もかならず現地へ見に行きたいと思っています。
関連情報
ファンサイトTough Pigsのポッドキャストで、マペッツスタジオのDani IglesiasとWDIのBette Lombardiが本アトラクションについてインタビューを受けており、経緯や各所の拘り、イースターエッグ、アニマトロニクスなどについて詳しく聞くことができます。※英語音声

『Rock ‘n’ Roller Coaster Starring The Muppets』に関する情報は下記記事にてまとめています。




